① すべての生命は鉄を必要としている<3>:呼吸に‘鉄’が必要な理由!(その2)
‘ヘモグロビンの構造’ に拘るのは、この構造をちゃんと理解していれば、‘鉄原子’が人間の体にとって以下に必要かという事が説明出来るからである。

前回は、‘ヘモグロビンの働き’という‘効果’そのもののを理解しようとしたのだが、今回以降は、この効果を齎す反応を起こす場合に‘鉄’がどんな役目・分担をしているかに焦点を絞りたい!

前回も少しは触れたが、ヘモグロビンの構造は極めて複雑である!
その理由は、何段階にもわたって反応の効果を徐々に増加して行くといった‘神業’に近い‘システム’が、こんな微小の世界に組み上げられていることである。

多分、人間の知恵だけで、酸素をヘモグロビンから解離する装置を作るとしたら、‘一段階’だけで処理しようとするに違いないから、いくら頑張ってみても思うように処理出来ないことで進歩が止まってしまう事だろう!

ところが、実際のヘモグロビンでは、上述の通り一段階だけではないのである。その表現が前回にも引用した次の文献である。

41_ヘモグロビン(Hemoglobin) - 今月の分子(Molecule of the Month) - PDBj0001
http://www.pdbj.org/mom/index.php?l=ja&p=041

ヘモグロビン
http://apnu0622.blogspot.jp/2010/08/blog-post_1920.html

この図を見てみると、一個のヘモグロビンがまるで‘心臓’のような構造に見えて来る!これぞ‘神業!’以外の何物でもない!

この4つのサブユニットが無駄にある訳ではない!それぞれの機能を分担しあっているのである!恐るべし!

因みに、一個のヘモグロビンの大きさは、直径が、~7nm である。

今後の技術開発の方法論に‘革命を起こす考え方’でもあると思われる!

1 (1)
http://www.le.it-chiba.ac.jp/iino/hp/naiyou.html
赤血球の走査型電子顕微鏡(SEM)写真 このSEM写真からは、直径は、凡そ‘6μm’。

b021_s_t1_1.jpg
http://rikanet2.jst.go.jp/outline.php?db=ippan&id=80040900
赤血球・走査電子顕微鏡拡大写真 この写真からも、赤血球の直径は、約6~7μmと推定出来る。

setuketukiyuu.jpg
http://www.d-harada.jp/cgi-bin/harada/siteup.cgi?category=2&page=1
この文献では、赤血球の大きさが出ている。

そして、この赤血球の中にヘモグロビンは、

2012-02-22_204501.jpg
http://hontotsutae.blogspot.jp/2012_02_01_archive.html
このような詰まり方をしているらしいから、ヘモグロビンの大きさは、極めて細かい!

HbV01-fig1-ja.gif
http://www.waseda.jp/prj-artifblood/HbV01-ja.html
ここの表示からすれば、一つのヘモグロビンの大きさは、凡そ赤血球の直径の1000分の1である!

この極めて微小なヘモグロビンが、極めて偉大な活動をしていることに注目すべきである!


http://www.onsenmaru.com/topics/T-300/T-350-ikablood-K.htm
第350回  血と骨 - 11 酸素運搬

第349回 「血と骨 - 10 タンパク質」 より続く

 さて、人間の赤い血の源であるヘモグロビンの殆どを占めるタンパク質・グロビンは、

1次構造: アミノ酸の配列順序
2次構造: アミノ酸鎖の螺旋構造
3次構造: 螺旋によるミミズ構造体
4次構造: ミミズ構造体の集合
の、複雑な構造を持つタンパク質である事を見て来ました。

T-349-5.jpg

ヒトのヘモグロビン

 ところが、グロビン自身には色がある訳ではありません。先にご紹介した様に、血の赤い色の主役を担っているのは、

  ヘム = 鉄 + ポルフィリン

です。

T-348-3.gif

(赤線がポルフィリン骨格;同一平面状に平たく広がる)  

 では、この平べったい構造のヘムは一体どこに居て、どの様にグロビン・タンパクと関わっているのでしょうか。そこで、ミミズの様にのたくっているタンパクの内部をよく見ると、下図の赤色部分にヘムが隠れて居るのがわかります。

T-350-1.jpg

 螺旋を描きながら複雑に折れ曲がっているタンパク質の隙間にヘムがポコッとはまり込んだ様な格好です。しかし、ヘムはここに只挟まっているだけではありません。と言ってもこれでは見辛いですね。そこで、上のミミズ構造をそっと伸ばしてみたのが下図です。

T-350-2.jpg

 AからHまでは実際には螺旋を巻いている直線部分です。これらが折り畳まれてミミズ構造を作っています。さて、この中でヘム(上図では平べったい構造を横から見ています)は、F鎖中にあるヒスチジンと言うアミノ酸ユニットと結びついているのです。つまりヘモグロビンには150個近いアミノ酸が並んでいるのに、ヘムはどれもこれも必ずこのF鎖のヒスチジンを選んでくっついているのです。何だかそれって凄い事だと思いませんか。こんな複雑な構造の中でベスト・ポジションをどうやって見つけるのでしょう。

 さて、ではヒスチジンがヘムにくっ付いているってどう言う事なのでしょう。そこで、まずヘムの構造をもう一度見直します。ヘムの中心の鉄(Fe)は、ポルフィリン骨格の4つの窒素(N)と結びついています。

 ところが、当シリーズの「血と骨-その7 鉄の色」で見たように、鉄は、四方及び上下の計6箇所で他のイオンや化合物と結び付く事が出来ます。

T-346-1.gif

 と言う事は、窒素で四方を囲まれているだけのヘムの鉄は、上下に更に空き部屋を持っている事になります。そう、正しくその通りなのです。

T-350-3.jpg

 グロビンF鎖にあるヒスチジン中の窒素(N)が、その一方を押さえてヘム中の鉄と結び付くのです。こうして、ヘムはグロビンの隙間にはまり込んでいるだけでなく、グロビン鎖と化学的にくっついて固定される事になります。

 でも、これでも鉄(Fe)の周りは5つの窒素に囲まれているに過ぎません。まだもう一つ空き部屋があります。実は、残りのこの一部屋こそが重要なのです。酸素分子がここに入るのです。これで鉄の回り6箇所が押さえられて鉄は安定化されました。

T-350-4.jpg

 そう、ヘモグロビンの最重要任務である酸素運搬の機能の中心はここにあったのです。実際のヘモグロビンは上記の基本ユニットが4つくっ付いて出来上がっているので、ヘモグロビン1分子で4分子の酸素を運搬している事になります。

T-349-6.jpg
ヘモグロビンの4ユニット

 でも、ヘモグロビン4ユニット全体で凡そ 64,500 程度の分子量です。そんな巨大なタンパク質で分子量が僅か32の酸素分子をたった4つ運んでいるだけなのです。タンカーでサラダオイルを一瓶だけ運んでいる様なものです。何だかとても無駄な事をしている様に見えませんか。いえいえ、決してそんな事はないのです。そこにはヘモグロビンの深慮遠謀が隠されていたのでした。

 血の赤い色の話はまだ出て来ませんが、もう少しお付き合い下さい。

参照:

ヘモグロビンの構造:「ヴォート 生化学(上)」、D.Voet 他、東京化学同人
ヘモグロビンの構造:「血液」、高久史麿・高田明和、医学書院
第353回 「血と骨-第353回 動脈・静脈」に続く

2009/10/31 記


(つづく):血の赤い色の話 etc.
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